Search

ベスト20着と靴下361足植物のように服を慈しむ - 日本経済新聞

kutsu.prelol.com

砂漠のオアシスならぬ大都会のビルの中の小さなオアシス。みずみずしい緑あふれるテラスが、東京・六本木にあるAXISビルの3階に存在する。ランチタイムになると、近くで働く女性たちが弁当持参でやってきてくつろぐのも日常の風景だ。

その隣にあるのは高山恒久さん(73)が経営する「トムス・ガーデン株式会社」本店だ。個人宅や企業、大型商業施設を顧客に持ち、造園の設計や施工、管理のほか、室内の観葉植物のコーディネートなどを手掛ける。先のテラスに配置された観葉植物カリフォルニア・ボックスウッドや月桂樹などは、すべて同社の商品だ。千葉県木更津市に所有する樹林で育て、運んできている。

高山さんは、日本のグリーンコーディネートの草分け的な存在だ。ベンジャミンやガジュマルなどの観葉植物を室内で楽しむ習慣が、住宅事情がよくなるなかで定着し始めたのは、1970年代の初め。「インドア・グリーン」と呼ばれる観葉植物の需要拡大を確信した高山さんは、74年、トムス・ガーデンを立ち上げた。

当初は小型トラックに花や鉢植えを積み、東急東横線の代官山駅前や元赤坂の迎賓館前などで営業する移動店舗から始めた。有楽町では仕事帰りの女性が集まり2時間弱で売り切れたり、代官山では通りがかった俳優の渥美清が買ってくれたり。その後、建築家の宮脇檀、林昌二、谷口吉生さんらが手掛ける新しい植栽計画にも携わった。

そんな高山さんは、身だしなみに対するこだわりが半端ではない。「おしゃれの影響を受けたのは、若いころの音楽や『ウエスト・サイド物語』『ゴッドファーザー』といった映画です。音楽では、特にビートルズのレコードジャケットの写真は、一番のお手本になりました」。また、スティーブ・マックイーンなど、好きな俳優が出演する往年の映画には、記憶に残る洗練されたベストの着こなしが多いという。米国の通販雑誌をいつもチェックし、シャツやベストを取り寄せたことも一度や二度ではない。

テレビドラマや雑誌などで活躍するスタイリストで、古くからの友人、中村槇子さんは「仕事柄もあるでしょうが、特にベストの着こなしが抜群ですね」と話す。

室内外の仕事を手掛ける高山さんにとって、脱ぎ着して温度調整がしやすいベストは重宝する。「最近は企業でも家庭でも冷暖房が利いているので、温度調整に脱ぎ着しやすいベストは手放せない」。着ていて腕が自由に使えるところが作業上、便利だと説明する。20着ほど持っている。「日本製がほとんどですが、旅先の海外で買った物もあります。最初のは、ロンドンの骨董市ポートベロで買いました」。その後は仕事先の近くの店などで気に入ったものを見つけては、買い足してきた。

ベストのおしゃれを楽しむには、合わせるシャツ選びが肝心だ。

高山さんが好きなスタイルは、スタンドカラーのシャツにベストを合わせるというもの。若いころに米国で購入したブルックスブラザーズのシャツなどは、擦り切れた襟を、低めの立ち襟に仕立て直した。「最近、引っ越した先の広尾でも、手持ちのシャツを持ち込むと仕立て直してくれるところをようやく見つけて、ほっとしているところなのです」

高山さんは、武蔵野の面影が色濃く残る吉祥寺で生まれ育った。小学校は、自宅から徒歩10分足らずの成蹊小学校に通った。「僕の人生の緑へのこだわりの原点は、自宅から学校まで緑いっぱいの中で遊びまくり、育ったことにあるのかもしれないね」と振り返る。「園芸」という科目が毎週の授業に組み込まれていたことも大きい。「先生の名前が田植豊実(たうえとよみ)さんでした。生徒がみんなで学校の庭でダイコンを育てたり、トマトを植えたり。トウモロコシも作っていたなあ」と懐かしむ。

ただ、今の仕事を始める直接のきっかけは大学時代のアルバイトだ。園芸店の配達業務をしていて、「将来の仕事はこれだ」とひらめいたと説明する。「配達先で緑を受け取る人が『ごくろうさま』といいながら、必ず笑顔になるの。質素な家の人も、裕福そうな家の人もみんなね」

高山さんのこだわりは生活全般に及ぶ。例えば、毎週トマトを買いに広尾から西荻窪まで電車で通うほどだ。年齢を重ねても健康で好きな仕事を続けるためには、お気に入りに対するこだわりを持つことが高山式といえそうだ。

ファッションもお気に入りのものをずっと身につけ続けている。シャツやベストだけではない。「僕にとって、気に入って買ったものは一生大事。靴下は学生時代からのものも含めると、361足持っています。破れても繕って履くのです」

仕事では、店での接客のほか、個人宅への植物の配達、温室での作業など、さまざまなシーンがある。お気に入りの服は、いつでも着られるようにメンテナンスをしておく必要がある。それはグリーンに毎日、手入れをする感覚にも通じているようだ。

ジャーナリスト 堀江瑠璃子

高井潤撮影

[NIKKEI The STYLE6月25日付]

【関連記事】

Adblock test (Why?)


July 05, 2023 at 03:00AM
https://news.google.com/rss/articles/CBMiPGh0dHBzOi8vd3d3Lm5pa2tlaS5jb20vYXJ0aWNsZS9ER1haUU9VRDA0MUI4MFUzQTYwMEMyMDAwMDAwL9IBAA?oc=5

ベスト20着と靴下361足、植物のように服を慈しむ - 日本経済新聞
https://news.google.com/search?q=%E9%9D%B4%E4%B8%8B&hl=ja&gl=JP&ceid=JP:ja
Mesir News Info
Israel News info
Taiwan News Info
Vietnam News and Info
Japan News and Info Update

Bagikan Berita Ini

0 Response to "ベスト20着と靴下361足植物のように服を慈しむ - 日本経済新聞"

Post a Comment

Powered by Blogger.