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売り切れ続出の「ファミマソックス」はなぜ誕生したのか 目指したのは“雨でぬれた時に買う”商品からの脱却 - ITmedia

kutsu.prelol.com

 今、SNSを中心に“ファミマの靴下”が話題となっている。ファミリーマートが販売する「ラインソックス」(429円)だ。白地の靴下に、同社のイメージカラーである青と緑のラインをあしらっている。

 SNSでは「#ファミマソックス」や「#ファミマの靴下」といったタグが付けられ、購入報告やコーディネートの写真が相次いで掲載されている。また、俳優の木村拓哉氏がラインソックスを着用した写真を掲載したことも話題に火を付けた。

ファミマの靴下 SNSで人気の「ラインソックス」(ファミリーマート公式Webサイトより)

 そんな話を聞いて「コンビニの衣料品なんて、緊急時以外買ったことがないよ」と思った人も多いだろう。実はその通りで、ファミリーマート商品本部の吉村直途氏は、「コンビニの日用品は緊急ニーズ対応に特化する特徴があった」と振り返る。

 例えば、コンビニで見かける小さいサイズのシャンプーや歯ブラシセットなどは、“その場しのぎ用”として売れていた。急な出張や外泊時、旅先などで購入した人も多いはず。靴下や下着などのインナーも同様だ。吉村氏いわく、インナーは金曜や土曜の深夜に売り上げが伸び、靴下に至っては「雨が降った日の午前中」によく売れていたという。購買層はコンビニ利用者の年齢構成比に近い40〜50代の男性が中心だった。

 そんな緊急需要からの脱却を図るため、同社では2021年3月からラインソックスを始めたとした衣料品を「コンビニエンスウェア」としてブランド化し、全国で展開している。「じぶんを愛そう。いい素材、いい技術、いいデザイン。」をコンセプトに、日常使いに最適なシルエットや素材を採用した商品として訴求している。

ファミマの靴下 コンビニエンスウェア(ファミリーマート公式Webサイトより)

 吉村氏は、「緊急需要に応えることは大事な取り組み」とした上で、事業を拡大させるにはそこからの脱却が求められていると話す。

 「緊急ニーズのみに対応し続けていると、何をしても売り上げはほぼ変わらない。そうなると“安く安く”となるのが経営判断だろう。しかしそれでは出張者や飲み会に参加する人の数が変わらない限り、成長は見込めないと思っていた」(吉村氏)

 同社によるとインナーの市場規模は約1.5兆円。生活必需品であるインナーは、アウターやボトムスとは異なり、急激に人口が減るといった要因がない限り需要が落ちにくい市場だ。そこで同社は、緊急需要ありきだった“受け身の商品開発”から方針転換し、インナー市場に切り込んでいく判断をしたという。

 「インナー市場はポテンシャルがある。その市場に対して1万6500店舗のインフラを持ってしても、一定数の非常に少ないシェアしか取れていない。市場のポテンシャルと自分たちの現状との乖離をみたときに、もっと挑戦していくべきではと感じていた」(吉村氏)

細部にまでこだわった商品開発

ファミリーマート 共同開発したデザイナーの落合宏理氏(プレスリリースより)

 企画を始動したのは19年の末。共同開発者として世界的ブランド「FACETASM(ファセッタズム)」のデザイナー落合宏理氏を迎え、商品のラインアップやデザイン、素材にとことんこだわった。

 落合氏と共に店舗を回り、アルバイトスタッフなどとの意見交換を行った。また、お客に求められているニーズを分析しながら全ての試作品を落合氏が確認。フィッティングなどを繰り返し、細部にまでこだわった。

 伊藤忠の傘下となった強みも生かし、使用する素材も独自で開発した。例えば、女性用の「スキンタンクトップ」には、伊藤忠の再生ポリエステル糸「Renu(レニュー)」と旭化成の機能糸「Paircool(ペアクール)」を配合。蒸れにくく速乾性に優れた仕様とした。機能性に優れながらも価格は1089円と、アパレル専門店で販売している商品とそん色のない設定とした。

 男女兼用のアウターTシャツ(1089円)は、100%オーガニックコットンを使用。抗菌防臭加工を施し、ニオイにくい仕様とした。同商品は名前の通り「1枚で着られるTシャツ」として訴求していて、生地の厚さや襟の幅、肩の“落ち感”といった細かい部分まで落合氏と協議し、デザインしたという。

コンビニエンスウェア 細部にまでこだわったラインアップ(出所:プレスリリース)

社内の人間では気付かなかった3本線の「アート」

 コンビニエンスウェアは現在70アイテムを展開。その中でもひときわ話題となっている商品が、先述した「ラインソックス」だ。ありそうでなかったファミマの靴下。吉村氏は「共同開発した落合氏ならではのこだわりがあった」と話す。

 「毎日ロゴを見ているファミマ社員にとって、この柄を展開することはある種の挑戦で、社内では「ベーシックな商品しか売れないのでは」といった声もあった。しかし落合氏は、『3本線でファミマだとイメージできるデザインはカルチャーに近く、それだけでアートになっている』との感覚を強く持っていた。議論を交わす中で、ブランドを象徴する商品として展開することになった」

見ただけで「ファミマ」と感じるデザイン(出所:プレスリリース)

 同社の「挑戦」だったラインソックスはSNSを中心に話題に。20年に関西エリアで先行発売した際には「ファミマがファミマ柄の靴下売ってるの良すぎる」というツイートに5万件以上のいいねがついた。

 全国展開以降は、一時品切れする店も相次ぎ「数軒回ってやっと発見した」といった声や、中高生を中心に友人と「おそろいコーデ」を楽しむ写真が多く掲載されている。インスタグラムでは「#ファミマソックス」とタグ付けした写真が3700件以上投稿され、TikTokでは500万回以上再生されている。

 そのような影響もあって、インナーの購買層に変化が出てきている。先述した通り、これまでは金曜、土曜の深夜に40〜50代の男性の購入率が高かったが、インナーソックスなどは土日の売り上げが大きく、より若い層の購入が目立つようになった。

 また、アウターTシャツも、テレワークの普及によるビジネスウェアのカジュアル化が後押しし、売り上げは好調だ。SNSで話題となった商品や世界的デザイナーのアイテムが仕事や学校帰りに立ち寄るファミマで買える。このような利便性もあって、「何でもいいからその場しのぎに買う」ものから「欲しい商品だから買う」といった流れに変化しつつあるようだ。

おにぎりやコーヒーのようにインナーもコンビニで買う時代に

 6月29日には、初のコラボ商品として「コカ・コーラ」のロゴをデザインした今治タオルを数量限定で発売。世界的に知名度のあるブランドとコラボすることで、コンビニエンスウェアの認知度をさらに高める狙いがある。

 また発売時には、コカ・コーラの飲料製品を買うとコンビニエンスウェアに使えるクーポン券を配布するキャンペーンを実施(現在は終了)。ドリンクから衣料品まで取りそろえるコンビニの強みを生かし、ドリンクと衣料品を横断的に展開する試みを行った。

コカ・コーラとのコラボアイテムも発売(出所:プレスリリース)

 独自の店舗網と象徴的な商品で若者の心をつかんだコンビニエンスウェア。吉村氏は「日本人の生活様式を変えたい」と今後の展望を語る。

 「つい数十年前まで、コンビニでおにぎりを買うわけがない。ドリップコーヒーを買うわけないと言われていた。しかし今では当たり前のように買われている。質の良いインナーもコンビニで買う習慣になれば、休日に衣料品店に行ってまとめ買いをしていた時間が浮き、家族で過ごす時間ができる。その結果、日本人の生活が豊かになるのではないか」

ラインソックスとアウターTシャツを持つ吉村直途氏

 試着室を設置するスぺースがないコンビニで衣料品の多角化展開には限界がある。しかし、市場に求めらているニーズをきちんと押さえつつ、インナーソックスのような象徴的な商品を展開する戦略を進め、インナー市場でのシェア拡大を狙う。

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July 29, 2021 at 04:00AM
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2107/29/news035.html

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