佐賀県中部の江北町。人口1万人足らずののどかな街に、ベトナム人実習生を受け入れる中小企業がある。
老舗靴下メーカーの「イイダ靴下」。若い日本人が集まらないのに困った飯田清三会長(80)が20年前、受け入れを決めた。
コロナ禍の時期を除いて毎年10人前後を迎えている。ほとんどが20代、30代の女性で「卒業生」が姉妹や親類、友人らに同社を紹介し、バトンが引き継がれている。同窓ネットワークの中心にいるのが、堀田グェン・ティ・トゥイさん(32)だ。
農村で生まれ育ったトゥイさんは、ハノイの大学に進んだとき、イイダ靴下で実習を経験した幼なじみらから、同社を薦められた。授業に物足りなさを感じたこともあって、大学を中退。2011年に入社した。
実習期間を終える3年目に社員と交際を始めた。
2014年2月にいったん帰国。同年9月に結婚し、3カ月後に再来日した。4年前に長男が誕生。いまは夫婦で同社に勤めている。日本語が堪能で、飯田の右腕として実習生の採用をサポートしている。
実習生の住まいは敷地内にある寮で、生活費を抑えられる。だから、日本に来るために背負った多額の借金を返し、さらに200万〜300万円がたまる。トゥイさんは寮に顔を出しては後輩の悩みを聞いたり、ショッピングに連れて行ったり。帰国した卒業生からの「日本に戻るにはどうすれば?」といった相談にも乗る。地域住民との交流にも気を配る。
イイダ靴下でトゥイさんの2期先輩のチャン・ティ・トゥー・ハーさん(32)は帰国後、ベトナム人と結婚した。だが、日本で再び働きたい気持ちが募り、トゥイさんの知り合いがいる福岡県の短大に留学した。短大卒業後、実習生の受け入れ窓口である監理団体の職員になった。
両親に預けていた娘を呼び寄せて福岡県で暮らす。「娘はベトナム語はぺらぺら」とほおを緩める。
8月21日、トゥイさんの3期後輩で同じ村出身のルオン・ティ・フォン・ガットさんが会社員の大石涼平さんと飯田会長を訪ねてきた。結婚報告だった。
ガットさんも実習を終えた2017年に帰国したが、「安全な日本に住みたい」と留学生として再来日した。ハーさんが通った短大に在籍中で、大石さんとはバイト先の宿泊施設で知り合った。
大石さんは、倹約家のガットから「『無駄遣いするな』と怒られる」と笑う。2人とも日本で飲食店を営むのが目標だ。
飯田会長は、途上国への技術移転をうたう技能実習制度の「看板倒れ」を指摘し、「正面から労働者として受け入れるべきだ」「実習生にも転職を認めるべきだ」と制度見直しの必要性を強調してきた。
同時に、帰国後のことを考え、日本語教育に力を入れる。日本語教師や、日系企業の社員なら高給を期待できるからだ。一方で、日本にいる間にできるだけ「日本」に触れてもらいたいと、社員旅行で各地に連れて行く。
一昨年には夫婦の実習生向けの寮をつくった。長屋型の6戸で野菜作りができるよう小さな庭付きにした。「会社は実習生に支えられている」という飯田会長は安定した生活環境作りに余念がない。それが評判を呼び、希望者が後を絶たない。
この20年で、のべ208人を受け入れた。黙って姿を消したのは3人で、この15年以上はゼロだ。ベトナム人コミュニティーが日本社会でゆっくりと広がり、溶け込んでいる。
October 20, 2022 at 04:07AM
https://globe.asahi.com/article/14745948
広がる技能実習生ネットワーク 佐賀の老舗靴下メーカーがベトナム人を引きつける理由:朝日新聞GLOBE+ - GLOBE+
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